古九谷色絵唐人物図大平鉢
石川県九谷焼美術館蔵
解説!
九谷焼とはいったいどんな焼き物なのか
九谷焼は、石川県の南部(加賀市や小松市、能美市、金沢市など)で作られる陶磁器です。今から約370年前の江戸時代前期、加賀国江沼郡九谷村(現在は石川県加賀市山中温泉九谷町)の奥山の窯で焼かれた色絵磁器が、九谷焼の始まりとされています。窯が築かれた地が九谷村だったため、九谷焼と称されました。
現在、九谷焼は、日本が誇る伝統工芸品の1つであり、国内外を問わず人気が高いです。
九谷焼の特徴とは
九谷焼を語る上で欠かせないのが、上絵付け(器の絵柄や装飾のこと)です。九谷焼の上絵は和絵具で描かれるのが主流。和絵具で描かれた紋様や絵は、重厚感があり、華やかで、豊かな色彩もまた美しい。
さらに上絵の表現方法は多岐にわたり、その表現は現在、作家の数だけ、窯元の数だけあると言われるほど。
各作家・窯元の上絵への強いこだわり、そして様々な表現が楽しめるのが、九谷焼の特徴とも言え、面白い点でもあります。
表現の多様性は今に始まったことではありません。九谷焼は、370年に渡る歴史の中で、時代ごとに新たな表現方法(画風)が生まれ、進化を遂げてきた他に類を見ない焼き物です。
九谷焼の歴史と画風から見えてくる魅力
九谷焼で用いる和絵具
九谷焼で用いる和絵具は、九谷五彩と呼ばれる5色(緑、黄、紫、紺青、赤)を基本としています。
緑、黄、紫、紺青は、焼成するとガラス質に変化。九谷焼ならではの重厚感やツヤ感は、この和絵具がガラス質に変化することで生まれます。一方で赤は、他の4色とは異なり厚みはないですが、細い線を描けることが特徴です。
九谷焼の絵の輪郭線は、基本、呉須という顔料で描きます。このことを九谷焼では骨描きとも言われています。
赤と呉須で骨描きした器
次に、この呉須線の上に重ねるように、緑、黄、紫、紺青の色をのせていきます。
和絵具を重ねた器
緑、黄、紫、紺青の4色は、焼成してはじめて発色するため、焼成前は全く異なる色でツヤもありません。
焼成した器
この4色は焼成すると色ガラスのようになり、下に描いた呉須線が透けて見え、絵が完成します。ガラス質ならではのツヤ感も美しい。
九谷焼は磁器? 陶器?
九谷焼は、焼き物の種類でいうと、色絵陶磁器です。つまり磁器に絵付けした九谷焼もあれば、陶器に絵付けした九谷焼もあります。磁器と陶器、その違いは原料。同じ九谷焼でも磁器と陶器では、その仕上がりは大きく異なり、触り心地や上絵の趣も違ってきます。
磁器(じき)
原料は、陶石といった石が主成分。そのため磁器は、「石もの」とも呼ばれる。
磁器の器肌は、ガラス質のような滑らかな触り心地。色は白い。白地なので、絵付けや金彩が映える。
軽くたたいてみると、金属的な高い音がする。
陶器(とうき)
原料は、主に粘土。そのため陶器は「土もの」とも呼ばれる。
陶器は、土ならではの風合いと温もりを感じる。施す釉薬によって器肌に独特の表情が出せる。
軽くたたいてみると、低く鈍い音がする。
九谷焼の様式と技法の種類
九谷焼の表現方法は、多岐に渡ります。そんな中でも人気の様式(デザイン・画風)や主な技法を紹介。九谷焼においてよく出るワードでもあります。
古九谷風(こくたにふう)
古九谷とは初期の九谷焼のこと。
大皿に描かれていた古九谷の上絵を、豆皿に落とし込んだものや古九谷の様式にならって絵付けしたものなどを古九谷風とよんでいます。九谷五彩(緑、黄、紫、紺青、赤の5色)を用いて花鳥風月などが描かれたものや、青手様式のものも。古九谷風の器は、その魅力を現代の暮らしの中で楽しめるとあって人気です。
古九谷や吉田屋を今に受け継ぐ三ツ井為吉
木米風(もくべいふう)
江戸時代の名工・青木木米の画風をデザインしたもの。
赤の背景に中国風の人物を書き込んでいるのが特徴的で、人物の表情や仕草がなんとも趣があります。
木米は、今も人気のモチーフとして現代の九谷焼でもよく見られます。
吉田屋風(よしだやふう)
古九谷の青手様式を継承した画風をもとに表現に用いています。青手とは、緑・黄・紫・紺青の4色を用い、まるで油絵のように塗り埋めて描く様式。豪放な古九谷の青手に対して、吉田屋の青手は洗練された雰囲気があると言われています。
そんな吉田屋風のデザインは、華やかな中にも品があり、現代の食卓を素敵に彩ります。
飯田屋風(いいだやふう)・八郎手(はちろうで)・赤絵細描(あかえさいびょう)
飯田屋もしくは八郎手とは、今も人気の赤絵細描のことです。
赤絵細描とは、その名の通り、ごく細い線で赤絵を描く様式のこと。細かな線で連なるように描かれた文様や絵は、まさに超絶技巧で美しい。
赤絵に金彩をあしらい華やかなものも素敵です。
赤絵細描を華やかに継承 福島礼子
永楽風(えいらくふう)・金襴手(きんらんで)
金襴手とは、下地を赤で塗り埋めた背景に金彩のみで文様を描く技法。江戸時代後期に、京の永楽和全が九谷焼に根付かせたと言われており、金襴手の様式名は永楽とよばれています。
赤地に金の文様が浮かぶ金襴手は、ゴージャスで気高い。縁回りや取っ手など金蘭手をポイント使いした器も素敵です。
庄三風(しょうざふう)
明治時代に活躍した九谷庄三という陶工の画風にならって表現したもの。
庄三風は、古九谷、赤絵細描、金襴手、金彩など九谷焼のありとあらゆる加飾手法をたくみに取り入れた上絵で、豪華絢爛。
食卓を華やかに彩り、ハレの日にもふさわしい器です。
染付(そめつけ)
白磁に藍色の絵付けのみが施されたもの。九谷五彩を使った色絵とはまた違った、奥ゆかしい美しさや趣を感じます。染付は、素焼きの素地に呉須という顔料で描き、呉須は焼き上げるとキレイな藍色に変化。盛り付けた時に料理が華やぐのも、染付の器の魅力です。
美しい染付で魅了する山本長左
彩釉(さいゆう)
絵はなく、釉薬の透明感で魅了する彩釉。素地全体にかけた釉薬は、焼成するとガラス質に変化し、器の表面に美しいツヤが生まれます。色の濃さが異なる釉薬を塗り分けることで、色のグラデーションを作り出すことも。この彩釉の技法を追求した三代徳田八十吉は、「彩釉磁器」で重要無形文化財保持者に認定されました。
青粒(あおちぶ)
青は今でいう緑色のこと。緑の和絵具を盛り上げるようにして小さな点を描く技法です。塗りでもなく、線でもない。点の集合体が、見事な世界観を繰り広げます。小さな点を同じ大きさで、かつ集合体としての美しさを出せるのは、高い技術がないと難しい。粒が小さければ小さいほど、職人の技が優れている証。青粒以外にも、白粒や金粒もあります。
青粒の第一人者 三代仲田錦玉
釉裏金彩(ゆうりきんさい)
花や葉っぱなどの形にかたどった金箔を器に貼り、その上から釉薬をかけて焼き上げる技法。釉薬の透明感と金箔の煌めきがあいまって、とても美しい。
この釉裏金彩は、金沢の竹田有恒が考案。さらにその技法を研究・発展させたのが、重要無形文化財保持者に認定されている吉田美統です。
釉裏銀彩(ゆうりぎんさい)
銀箔でかたどった模様を器に貼り、その上から釉薬をかけて焼き上げた技法。普通、銀は空気にさらすと酸化して黒く変色してしまいます。しかし釉薬で覆うことで酸化を防ぎ、銀箔はキレイなまま。
控えめな輝きが楽しめ、洗練された美で魅了します。
花詰(はなづめ)
読んで字のごとく、花々を敷き詰めた上絵の技法。大正時代に九谷焼にもたらされたと言われていています。九谷焼では主流の和絵具ではなく、洋絵具で描かれる花詰。埋め尽くすように花々を描き焼き上げ、さらに花々の輪郭を金彩で縁取り、再度焼成して完成します。
花々の彩る豊かな色彩と、金彩の艶やかさが美しいハーモニーを奏でています。
厚く塗り上げる和絵具に対して、洋絵具で描かれたものは、九谷焼では「薄絵」と呼ばれ、様式・技法の1つに数えられています。
毛筆細字(もうひつさいじ)
極細の筆を用いて、古今和歌集といった古典文学を流麗に書く技法。小山清山が明治末期に確立した技法。一子相伝の技法とされ、その技を引き継いだ4代目の田村星都(たむらせいと)の作品は、常に人気です。整然と連なる文字は、拡大してみても、毛筆の書のように美しいです。
超絶技巧・九谷毛筆細字師 田村星都
作家や窯元によって、異なる様式や技法を用いながら、様々な表現で楽しませてくれる九谷焼。どんな作家や窯元がいるか探してみるのも楽しいです。