窯元・作家さんのこと

三代 仲田錦玉 | 盛金・青粒の第一人者


青粒盛金画風で魅了する
三代仲田錦玉

ふっくら厚みのある金で彩られた宝相華文(ほうそうげもん)。それを埋め尽くすかのように打たれた青粒は渦模様を浮かべる。こちらは、三代仲田錦玉氏の作品です。初代は祖父、そして二代である父の志や技を受け継いだ三代仲田錦玉氏。その代名詞は青粒盛金技法だ。黒の絵具でムラなく塗られた下地に、盛金の技術で輝きが帯びる模様を描き、最後に無数の粒を打つ。作品から醸し出される美しさの裏には、職人としての弛まぬ努力と技の追求があるのです。

青粒技法とは?

青粒は、九谷焼の地元では「あおちぶ」と呼ばれています。青粒は、極小の点を密集して描く、上絵の盛り上げ技法の1つです。青粒の他に、白粒や金粒などもあります。

九谷焼では大正時代に始まったと言われていて、当時は装飾の一部に用いられることが多かったそう。三代の祖父にあたる初代錦玉氏が手がけた器にも、描かれた人物の着物の柄に白粒があしらわれています。

昭和中期頃の初代錦玉氏の作品。着物の柄として白粒が用いれらている。

そんな青粒を主役級に扱ったのが、二代錦玉氏。青粒と、そしてもう一つの技法・盛金を追求し続けたそう。それまでにも盛金青粒を手がける職人はいましたが、棒打ちと呼ばれる直線上に粒を打つのが一般的でした。そんな中、二代錦玉氏は、密集した粒が渦のように見える渦打ちを編み出したのです。

青粒が整然と並びつつも渦模様が浮かぶ。

盛金で模様を描き、その周りを青粒の渦で埋め尽くす。この画風は、二代錦玉氏が確立した画風です。その画風を受け継ぎ、今に至るのが三代仲田錦玉氏です。

青粒はどのように描いている?

三代錦玉氏は、いかに青粒を打ち連ね、あの美しい渦模様を表現しているのでしょうか?
粒打ちでは、「いっちん」という先端に穴の空いた道具を使うのだそう。そこに調合した絵具を入れて、粒を打っていく。

ペンのような形状のものが、いっちん。

クリームを絞り袋に入れてケーキをデコレーションするような、そんな感じで粒を打っているのかと思いきや、どうやら違うよう。

「絵具を絞り出しているんじゃないんですよね。液体である絵具がいっちんの先端から落ちてくるんです」と優しい語り口で代錦玉氏は教えてくれました。

いっちんの先端を下に向けたままだと、絵具は出続けてしまう。だから極小の粒、1つ分の絵具が出たら、いっちんの角度をあげて絵具が出るのを止める。これをリズミカルに繰り返すのだそう。瞬間、瞬間に打たれた極小の粒の集合体は、ほぼ同じ大きさ、同じ間隔で、最終的には渦模様を浮かび上がらせます。まさに神業。

もう1つ浮かんだ疑問も聞いてみました。下描きなど、あたりをつけて渦模様を描いているのでしょうか?

「あたりはつけないです」と、代錦玉氏。「渦の中心点をここと決めたら、あとは一気に粒を打って、1つの渦を完成させます」。

下描きなし。フリーハンドで渦が描かれる。

一定のリズムでいっちんを動かすことで、均一の粒を等間隔で打つことができるのだそう。そのリズムはその時、その時で微妙に違ってくるとか。だから下描きはせず、その時のリズムに任せて1つの渦を描き切る。その渦が幾重にも連なり一つの世界観を構成していると思うと、思わず唸ってしまいます。

もう一つの主役・盛金技法とは?

盛金とは、模様部分をベンガラで厚く、盛り上げるように描き、その上から金を塗る技法です。

金の下地となるベンガラという絵具がまた、扱いにくいのだそう。上手く扱わないと、線がガタガタになったり、厚く塗った表面が凸凹してしまったり。そうなっては、せっかくの金を塗り重ねても美しく見えない。そんな金もこれまた、難しい。金は滑りが悪く、金で滑らかに描くには高い技術を要します。三代錦玉氏も、盛金は特に難しいと語る。

金沢の24金を取り寄せ自ら擦って金の絵具を作る。

「ベンガラも金もどちらも扱いが難しい。さらにベンガラで描いたところに金を塗り重ねるのですが、ベンガラと同じ筆圧で金を描かないとキレイに仕上がらないので、本当に難しいです」。

三代錦玉氏の盛金は美しいと評価は高い。

下地の「塗り」にも気を配る

青粒や盛金に目がいきがちですが、下地にも注目してみましょう。

「この下地は、つや消しの黒色。私の父である二代錦玉がこだわって作り上げた黒なんです。この黒は洋絵具なんですが、これも扱いが難しい」。

ベンガラ、金ときて、下地の絵具も扱いが難しいとは。

ムラのない下地だから粒や盛の美しさが際立つ。

「下地の塗りが上手くできないとムラができてしまいます。下地にムラがあると、せっかくの青粒も盛金も映えない。だから下地の塗りの工程も気を抜けませんね」と三代錦玉氏。

技の継承とその先への挑戦

代目を襲名することになったのは、二代錦玉氏に弟子入りしてから7年ほどの頃。青粒、盛金、下地の塗り。二代から受け継いだ技を守り、さらにその技に磨きをかけていきました。

そして襲名から10年以上が経過した今、自分のやりたい表現にもチャレンジできるようになったのだそう。そんな三代錦玉氏が新たに取り組んだ表現を見ていきましょう。

 

-余白を活かした渦打ち-

これまでの渦打ちは、余白を埋め尽くすように打たれていましたが、三代錦玉氏は渦打ちを部分的にあしらった作品も手がけています。

「琳派(江戸時代に栄えた装飾画の流派)の影響ですね。琳派の絵と出会って、ファンになりました。それで、九谷焼でも琳派の要素を表現したいと思って、余白を残した渦打ちをやってみたんです」。

埋め尽くす青粒は圧倒される美があり、一方で余白のある渦打ちは、なんとも言えない余韻が漂い魅力的です。

 

-白彩-

白彩は、文様部分を白盛絵具で絵付けし、その周りに白粒を施しています。盛金の煌びやかな華やかさとは異なる、しとやかな優美さをたたえています。

 

-ベンガラの下地-

下地に施されている趣のある赤は、ベンガラです。盛金の厚みを出すために用いられるベンガラの色に魅力を感じ、下地に採用したそう。ベンガラは扱いにくく、乾きやすい。そのため、つや消しの黒の下地以上にベンガラでの下地は大変なのだそう。だからこそなのか、完成した作品は、印象的なオーラを放っています。

青粒・盛金を追求した二代錦玉氏に対し、三代錦玉氏は、粒と盛の可能性を無限に広げています。そして九谷焼ファンを大いに楽しませてくれています。

今、描いていて一番面白いのは?と聞いてみたところ、三代錦玉氏は「置物」と答えてくれました。形が凸凹と複雑な表面に粒や盛を施すことは、また違った高いレベルが必要で、そこに面白みを感じるのだそう。まさにチャレンジ精神。

 

作品作りへの思い

「独りよがりにならないように気をつけています。自分だけが良くてもダメ。客観的な視点を持つようにしています。粒にしても、盛金にしても、うるさくなりすぎず、寂しくなりすぎず、程よい加減を模索しながら1つの作品を表現しています」。

そして、「買ってくれた人が喜んでくれたり、自分の作品をみてテンションが高くなったり、そんなリアクションが、一番嬉しい」のだそう。

これからの三代仲田錦玉について

「三代仲田錦玉としての九谷焼の世界は、まだまだ始まったばかりの気持ちでいます。初代の志や二代から受け継いだ技法を大切に守りながら、さらに自分なりの新しい画風も追求していきたい。そして自分ならではの粒打ち・盛金の作品を通して、たくさんの人に楽しんでもらったり、喜んでもらえたら嬉しいです」。

 

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