九谷焼のこと

九谷焼の技法と様式


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九谷焼MAG どい

石川県の編集・出版社に15年勤務を経て、九谷焼技術研修所へ。その後、九谷焼MAGで、日々九谷焼の情報を発信しています。

器を眺めるのがもっと楽しくなる
九谷焼の技法・様式

古九谷から始まった五彩手や、人気の赤絵細描、近代の名匠が生み出したものまで、一口に九谷焼と言ってもさまざまな様式、技法があります。九谷焼の間口の広さ、懐の深さには驚くばかり。そこで今回は、数ある中から代表的な九谷焼で用いられる技法や様式を紹介していきます。

 

✴︎五彩手(ごさいで)


九谷焼と聞くと、この五彩手の様式をイメージされるかたが多いかもしれません。まるで日本画のように余白をいかしながら、九谷五彩(緑・黄・紫・紺青・赤)で花鳥風月などを描く様式です。古九谷の頃から見られる様式であり、今もなお九谷焼の代表格。多くの人が九谷焼と言えば五彩手を思い浮かぶ…それほどインパクトがあり、愛されている様式なのでしょう。古くからある様式ですが、それが魅力的であり、かえって新鮮に感じます。現代の暮らしの中に、五彩手の器。かっこいいです。
写真 3.5号香炉・色絵松竹梅/三ツ井為吉

 

✴︎赤絵細描(あかえさいびょう)


読んで字の如く、細かな線で赤絵を描く技法です。極細の線で幾重にも規則正しく連なる文様は、まさに超絶技巧。線や点を密に描くことで、濃淡や奥行きの表現も可能にしています。明治時代に海外で一躍ブームになった「ジャパンクタニ」。そのきっかけとなった一つが、赤絵細描と金襴手という技法が融合した、赤絵金襴手の作品だったそう。日本だけでなく世界を魅了した赤絵細描。この美しき技法はしっかりと「今」に受け継がれています。現代の名工・福島武山をはじめ、若手の作家の多くもこの技法で美しい作品を生み出しています。
写真 6.5号飾鉢・赤絵細描鳳凰文/福島武山

 

✴︎染付(そめつけ)


染付は、白磁に藍色の絵付けのみが施されたものです。色絵の器とはまた違った、奥ゆかしい美や味わいが楽しめます。そもそも染付は、色絵磁器の製造過程でいうところの下絵付けで、色絵を描く前の段階のこと。素焼きの素地に呉須(ごす)という絵具で文様や絵を描き釉薬をかけて焼き上げ、その後の色絵の工程は省き、完成とするのが染付です。素焼きの素地の表面はざらざらしていて、呉須でキレイな線を描くには熟練の技が必要。それゆえに呉須だけで描き込まれた文様や花鳥風月を見ると、技術の高さに感動します。何より色に頼らない、その潔さにも魅力を感じます。
写真 九角浅鉢 丸紋松竹梅/山本長左

 

✴︎彩釉(さいゆう)


色絵磁器の表面のツヤ感は、素地にかけた釉薬によるものです。釉薬は焼成するとガラス質に変化し、それによって光沢が生まれます。彩釉という技法は、色のある釉薬を調合し、素地にかける時に階調の違う釉薬を塗り分けたり濃淡をつけたりして、器肌に光沢だけでなく美しい色のグラデーションをも生み出します。絵ではなく、釉薬の妙で作品を築く。光の反射具合によって、その表情は変化し、宝石のような器肌の艶やかな輝きは、器の中に小宇宙を感じさせ、見るものを魅了します。三代徳田八十吉が「彩釉磁器」で重要無形文化財保持者に認定されています。
写真 5号壺 耀彩/人間国宝 三代 徳田八十吉

 

✴︎青粒(あおちぶ)


大正時代に広まったとされる技法で、地色の上に、緑色の小さな点を盛り上げるようにして描き連ねています。塗るでもなく、線でもない。点の集合体が、まるで波紋のような美しい世界観を生み出しています。小さな点、しかも同じ大きさで、かつ集合体としての美しさを損なわずして描くのは、まさに至難の技。粒が小さければ小さいほど、その職人の技術の高さに惚れ惚れします。青粒の他に、白粒や金粒といった色味の違いもあります。
写真 ぐい呑・青粒松竹梅文/仲田錦玉

 

✴︎釉裏金彩(ゆうりきんさい)


文様をかたどった金箔を器に貼り付け、その上から透明な釉薬をかけて焼き上げる技法です。釉薬による艶やかな質感と金箔の煌めきが本当に美しい。そもそも金箔は、薄く、扱いにくい素材です。そんな金箔で思いのままに形を作って表現している、それだけでも熟練の技が光ります。この釉裏金彩は、金沢の竹田有恒が考案。さらにその技法を研究、発展させた吉田美統は、重要無形文化財保持者に認定されています。
写真  8号花瓶・釉裏金彩泰山木文/人間国宝 吉田美統

 

✴︎釉裏銀彩(ゆうりぎんさい)


銀箔で作った模様を器に貼り付け、その上から透明な釉薬や色釉薬を施して焼成する技法。力強い輝きで主役としての存在感のある金とは違い、銀は控えめな輝きで奥ゆかしい美を漂わせます。強く主張しない分、色のある釉薬とも見事に融合し、洗練された美しさを生み出しています。普通、銀は酸化して黒く変色してしまいますが、釉薬で覆うことで酸化を防ぎ、きれいな銀箔を永く楽しむことができるのも釉裏銀彩の利点。釉裏銀彩は、中田一於が確立した技法です。

写真  盃 淡青釉裏銀彩花文/中田一於

 

✴︎毛筆細字(もうひつさいじ)


古典文学、例えば古今和歌集などを極細の筆で流麗に器に書く技法。明治末期に初代・小山清山が編み出した一子相伝の技法で、今は4代目の田村星都がその技を受け継いでいます。いわゆる九谷焼の「絵」とは一線を画す、「文字」を使ったデザイン美。圧倒的な個性です。乱れることなく整然と連なる文字に、心地良ささえも感じます。拡大して見ると、毛筆の書としての美しさにも驚かされます。
写真 細字三十六歌仙和歌唐草文香爐/田村 星都

 

✴︎陶磁彫刻(とうじちょうこく)


人や仏、動物、縁起物などを陶磁で形作る技法です。九谷焼では明治以降に用いられるようになりました。九谷焼の陶彫における現代の名工は宮本直樹。その製作工程は、粘土で原型を彫刻→パーツごとに石膏で型を起こす→石膏型に生地となる土を詰めてパーツを成形→パーツを組み合わせて素地が完成→素焼き→本焼き→上絵付け→完成。顔の表情やその仕草は、作家の彫刻の技術やそのセンスによって大きく左右します。細部まで気を配った造形の見事さと九谷焼ならではの豊かな色彩、その両方を楽しむことができます。
写真 4.8号香炉・ふくろう/宮本直樹

 

✴︎花詰(はなづめ)


さまざまな花々を埋め尽くすように描き、焼き上げあげた後に、さらに花々の輪郭を金彩で縁取りをし再び焼成し完成させる技法です。大正時代、金沢の水田四郎によって九谷にもたらされた技法と言われています。色彩の豊かさ、金彩の華やかさが合間って、豪華絢爛さが楽しめます。
写真 マグカップ 金花詰

 

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九谷焼は、作家の数だけ作風があり、個性が楽しめる焼き物です。さまざまな作家や作品を見ていくうちに、初めましての技法に出会えたり、お気に入りの様式、これぞ!という作風に巡り会えるはずです。