窯元・作家さんのこと

古九谷や吉田屋を今に受け継ぐ 三ッ井為吉


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この記事を書いた人

九谷焼MAG どい

石川県の編集・出版社に15年勤務を経て、九谷焼技術研修所へ。その後、九谷焼MAGで、日々九谷焼の情報を発信しています。

古九谷や吉田屋の画風を今に受け継ぐ
三ッ井為吉の色絵九谷の美

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九谷五彩…緑 、黄、紫、紺青、そして赤の5色を用い、美しい上絵で見るものを魅了するのが三ッ井為吉の器です。
本日は三ッ井為吉工房兼ギャラリーにお邪魔しました。

 

これぞ九谷焼
そう思わずにはいられない存在感

まず目に飛び込んできたのは、古九谷や吉田屋で用いられた青手様式の花瓶。
青手様式とは、緑、黄、紫の3色、または紺青を加えた4色で器全体をまるで油絵のように塗り埋める手法です。まさに絵画のよう。深みのある黄と緻密な模様を施した背景に対して、写実的に描かれた花鳥とのコントラストが心地よいです。

こちらは五彩手の鉢です。
五彩手も古九谷から今に続く様式。九谷五彩(緑、黄、紫、紺青、赤)を使い、花鳥風月などを余白を残して描く華麗な上絵が楽しめます。
文様と色絵がリズミカルに配され、心が躍ります。

 


三ッ井為吉の作風は、古九谷や吉田屋の画風・様式を用い、山水や花鳥風月といった伝統的な絵柄が楽しめます。

 

古九谷や吉田屋の画風の魅力とは

次期4代三ッ井為吉を襲名する三ッ井達也氏にお話をうかがいました。
「黄金比のように、古来より人が心から美しいと感じる構図やデザインというものがあるのではないかと私は思っています。360年前に生まれた古九谷も、200年前に作られた吉田屋も、九谷で100年単位で残っている図案が、その範疇にあるのではと考えます。残っていくものは、それだけ素晴らしいし、人を惹きつけるものがあるのだと思います。


だからと言って古九谷や吉田屋の上絵をただ転写しても琴線を震わすことはできません。伝統的な絵柄は構図が完成しているので、そこにいかにして三ッ井為吉らしさを出すか…試行錯誤の毎日です」
と話してくれました。


三ッ井為吉らしさを模索しつつも、古九谷、吉田屋への思いは強い。
「古九谷や吉田屋の作風が単純に好きなんです。美術館で古九谷や吉田屋の名品を見ると、いつ見ても、何度見ても心が奪われます。少々のキズや絵具の流れがあっても美しい。何百年も前のものなのに、昨日窯から出てきたくらい艶やかで温かみがあります。好きなものに少しでも近づきたい、そんな思いがあります」。

 

吉田屋の『鷺に柳図』
古九谷の『青手桜花散文平鉢』

ちなみに古九谷や吉田屋の名品で好きなのはどれかを聞いてみたところ、
吉田屋の『鷺に柳図』が好きなのだそう。鷺に柳図を写した小皿も見せてもらいました。

達也氏いわく、柳の枝の描かれてないその先にはペアであるもう1羽の鷺がとまっているのかもしれないと、見えない部分に思いを馳せることができるのが『鷺と柳図』の素敵なところなのだそう。

ギャラリーには、県立美術館に所蔵されている『青手桜花散文平鉢 古九谷』を写した作品も。
美術館にあるそれは約45cmの大きな平鉢ですが、ここにあるのは中皿。
達也氏の言っていたことが腑に落ちます。
古九谷のデザインは完成していて素晴らしい。だから中皿で表現したとて、ぐっと引き込まれます。


そしてこの古九谷写しの中皿のすごい点は、色彩の見事さ。美術館で見た古九谷のように、吸い込まれるような深い色味が楽しめます。

 

なぜ古九谷や吉田屋のような
美しい色がだせるのか?

ここで1つの疑問がわきます。古九谷や吉田屋の時代に使われていた和絵具と今現在使われている和絵具は、さまざまな理由から同じではありません。にも関わらず、この古九谷の写しに限らず三ッ井為吉の上絵は、古九谷や吉田屋の上絵のような、重厚感のある鮮やかな色彩になっています。なぜそれが可能なのでしょうか。

「テストピースに絵具をのせて焼成してみて、どのような焼き上がりになるか、何度も何度も試行錯誤した、その積み重ねの結果です」と達也氏。

今も焼成の際は、温度や湿度管理など毎回かなり気を配っているそう。

「石川県には『弁当忘れても傘忘れるな』という格言があるくらい、天候が変わりやすく雨の日が多い。雨の日が多いと多湿になります。色絵磁器は湿度の影響を受けやすく、同じ絵具でも湿度の違いで全く違う焼き上がり(質感)になってしまう。同じような焼き上がりにする上で、多湿は厄介なんです。ただ、ありがたいことに当家では初代、2代、3代と代々窯データを記録してあり、そこから得たデータをもとにその日の温度・湿度に合わせた適切な条件で窯を焚いています。時には当家ならではの独自の方法で焼成することも。しかし代々の窯データを持ってしても100%ではないので、毎回窯のフタを開けて、手に取るまではドキドキです」。

 

上絵付けの様子を実際に見学

ゾウが描かれた大きな鉢も印象的でした。

「これは吉田屋の上絵を写したものです。

当時の絵師たちは、おそらく本物のゾウは見たことないはず。なのに、すごい迫力ですよね」と達也氏。

今は小さな盃に、このゾウを描いているそう。今回は、盃に絵付けをほどこす作業を見学させてもらいました。

盃の内側に吉田屋のゾウが描かれています。今回は外側の絵付け。呉須で描いた模様や輪郭線の上に、和絵具を重ねていきます。今塗っているねずみ色の和絵具は焼成すると鮮やかな緑になるのだそう。

湾曲している器の表面に色をのせるのは難しい。しかも筆使いを誤れば、すでに描いてある呉須線がよれたり滲んだりしてしまいます。
また絵具のかたさも重要。

絵具がゆるすぎると器の傾斜によって垂れてしまい、逆に絵具を重くすると塗りにくいため、絵具は絶妙なかたさにしているのだとか。

繊細な作業に感動しつつも、「意外と話しながらでも上絵付けができるようになった自分に驚いてます」と冗談混じりに話す達也氏の気さくな人柄にもほっこりしました。

 

受け継がれるものと
大切にしていること

念紙(ねんし)というものも見せてもらいました。

念紙とは、同じ形状の器に同じ上絵を描く時に使うもの。念紙に上絵の構図や模様を墨で描き、それを器に貼り付けます。するとハンコのように器に墨がついて構図や絵のあたりをつけることができます。そのあたりを元に呉須や和絵具で上絵を描いていくという流れ。墨は焼成すると消えてなくなります。

念紙は、一度作れば何度でも使えるそう。同じものを複数個作る時にも便利で、何十年と時が経てもこの念紙があれば同じ上絵を描くことができます。
先代たちの頃の念紙もたくさん残っていて、大切に受け継がれているのだそう。
念紙だけでなく、それぞれの代の絵手本(デッサン)もあり、それを元に上絵のデザインや構図を作成したりしているのだとか。

こちらは先代の頃から長年作り続けているという5種類の盃。

「今も人気の盃です。何度も何度も描いていますが、作り手が飽きてはいけないなと思ってます。まだまだ九谷焼と出会っていない人は多い。この長く愛されるデザインが、そんな人たちとのご縁を繋いでくれる。だから自分で勝手に終わらせてはいけないなと思っています」。

改めてギャラリーを見渡してみました。




この鮮やかで深い味わいのある九谷焼らしい色絵の美しさ、古典柄でありながらモダン。「良いもの」を追求し続ける三ッ井為吉の色絵磁器に魅了されます。

鳥獣戯画のカップ&ソーサーも素敵です。

漆の蒔絵や加賀友禅、金工など加賀工芸の良い部分を参考にしたり、ピンタレストを見てヒントを得たり、美術館巡りで良いものを見ることも大切にしているのだそう。

 

今後は、どんな作品を作ってみたいですか?

「ありがたいことに、名品を見たり触れたりする機会を数多くいただきました。そこで感じたのは、素晴らしい作品はサイズの大小問わず、その作品があるだけで空間を支配する力を出しているのです。抽象的なお話で申し訳ないのですが、そんな作品が作れれば最高です」。

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