窯元・作家さんのこと

虚空蔵窯・手づくりの温もりを伝える窯元


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九谷焼MAG 編集長

九谷焼MAG 編集長 です!

土の温もりと手描きの味わいが心地いい
虚空蔵窯の器づくり

1997年創業の虚空蔵窯(こくぞうがま)。素地の成形から絵付け、窯焼きも全て自社で行っている九谷焼業界では数少ない一貫生産の窯元です。さらに九谷焼では珍しい土物=陶器の器を中心に展開しています。虚空蔵窯の器は、土物ならではの風合いと温もり、手描きならではの味わいがあり、使い勝手も心地良い。それでいてオリジナリティのある形状とデザインで、ひときわ目を引く九谷焼です。

 

 

虚空蔵窯の人気&主力の「いっぷく碗」

ふっくらとした丸みのあるフォルム。陶器ならではの温もりある質感。一つひとつ丁寧に手描きで絵付けされた文様も美しい。虚空蔵窯を語る上で欠かせないのがこの「いっぷく碗」です。


左:いっぷく碗 ピンク花うらら
右:いっぷく碗 色絵無双椿 黒

「いっぷく碗は、先代が窯を起こした初期の頃からある商品です」。

と語るのは、虚空蔵窯の代表・市田貴洋さんです。

いっぷく碗は陶器=土物。ということは創業時から、土物で製作していたということですか?

「そうですね、土物での器づくりがメインだったと聞いています。『既製品にはない、手づくりならではの温もりある器づくり」というのが先代の考え。九谷焼の主流である磁器より、土物である陶器の方が、先代の作りたいイメージに合っていたんだと思うんです。それが今も続いていて、虚空蔵窯らしさになっています」。


いっぷく碗は絵柄も豊富。

確かに虚空蔵窯の器は土物×手づくりの風合いで、九谷焼の中でもひときわ異彩を放っています。そしていっぷく碗は、今も主力商品の1つですよね。

「虚空蔵窯のロングセラー商品。先代の頃は、いっぷく碗だけで300種類ぐらいのラインナップがあったことも。素地作りも手描きの絵付けも全て自社で当時から行なっていたので…窯の規模から考えても、よく作っていたなぁと思います。今は、いっぷく碗と、ひと回り小ぶりのいっぷく碗(小)に関しては、人気のある絵柄に絞って50種類ぐらいを展開していますね」。


いっぷく碗も、
一つひとつロクロで形作られる。

形や絵柄は創業時から変わっていないんですか?

「形は、お客様などの声を聞きながら今のフォルムになりました。素地作りから絵付けまで自分たちの窯で手がけているので、その時々で柔軟に対応できるのも、うちの強みではありますね。
絵柄も入れ替わりはしていますが、創業の頃の絵柄のいっぷく碗はありますよ。古染椿がそうです」。


左:いっぷく碗 古染椿(赤)
右:いっぷく碗(小)古染椿

古染椿、素敵です。
いっぷく碗といっぷく碗(小)を並べてみて思ったのですが、同じ形状のものを何個も作ること、そして同じ絵柄を同じように器に描くって、簡単なようでいて、実はすごく難しく技術が必要なんですよね。ロクロ師や絵付け師の皆さんの技術力に脱帽です

 

個性を放つトルコ釉シリーズ

いっぷく碗をはじめ、虚空蔵窯では絵付けされたアイテムが多いです。しかしそんな中、他と一線を画すのがトルコ釉シリーズ。絵付けは施さず、トルコブルーの釉薬のみで焼き上げているシリーズです。


トルコ釉シリーズ

「釉薬屋さんまで出向いて、このトルコブルーの釉薬を開発。理想の青を求めて、調合して、調合して、ようやく完成したもの。でも釉薬が完成したからと言ってゴールではない。次の壁は、窯焼きの際の焼成温度。焼きの温度によって、青の色味が違うし、気泡ができてしまうし、イメージにあった色味のものを、安定して作れるようになるのに、1年はかかったんじゃないかな。トルコ釉の商品の開発は、一番しんどかったと思いますね」。

このトルコ釉シリーズの商品開発の中心人物は、ロクロ師でもある市田哲也さん。哲也さんになぜトルコ釉シリーズを作ろうと思ったのかを聞いてみました。

「もともとブルーが好き。太陽光に照らされて、キラキラしている海の色が好き。そして自分は絵は描けないけど、造形はできる。絵付けに頼ることなく、造形だけで魅力的な商品を作りたかった。造形と好きな色。それを突き詰めていったのがトルコ釉シリーズなんです」。

貴洋さんから、生みの苦しみは相当だったと聞いています。

「絵がない分、ラクでしょ?と思われることもあるんですが、とんでもない。釉薬の開発、焼成温度の試行錯誤にも時間がかかったし、今だに焼成は難しくて、毎回気が抜けません。それでも、ロスが出るので大変な商品です」。

他の産地でもトルコブルーの商品はありますが、虚空蔵窯のものは、シルエットの美しさが抜きん出ていると思います。造形へのこだわりや独創性もひしひしと感じます。

 

造形の想い、こだわり

「虚空蔵窯は手づくりが売り。だから型でも作れるようなものは作りたくない。ロクロやたたら成形といった、手仕事でしか表現できない、そんな器づくりをしています」。

今、作っているマグカップにも、そんな手仕事ならではの点はあるんですか?

「そうですね。ロクロで成形した後、口の部分を3箇所引っ張り、あえて歪ませています。柔らかい印象になる。それと、側面。底から1.5センチほどは削って形を整えるけど、そこから上はロクロならではの味わいを残しています。削ればより、圴一の商品になるが、それだと面白くない。綺麗に削るより、手で引いたロクロならではの魅力を残したい」。


焼成前の粘土で成形したマグカップ。
口周りはあえて湾曲させて、ニュアンスをつけている。


左:マグカップ バイオレット花うらら
右:マグカップ 色絵刷毛目

虚空蔵窯の器を手にした時の持ち心地の良さは、土物の質感と、手仕事で作られた成形によるところが大きい。そして手仕事だからこそ、虚空蔵窯ならではのフォルムが出来上がるというわけですね。独特なフォルムと言えば、湯呑のシルエットも特徴的。陶器でゴブレットも面白いですよね。


湯呑ペコ


ゴブレット

「自分は、キリッとした、凛としたフォルムが好き。脚を細く見せるのも得意なこと。ゴブレットの脚も、ギリギリまで細くするのが好き。やりすぎるとグニャっとなっちゃうから、本当にギリギリのところを攻めてます」。

 

一貫生産の強みを最大限に!

九谷焼の業界において素地作りと絵付けを分業しているところは多いが、虚空蔵窯では素地も絵付けも自分たちのところで行っている一貫生産です。


粘土からの素地作りも自社で行われている。
素地とは絵付けを施す前の器のこと。


絵付けや窯焼きも自社で。
全ての作業を行なっている。

素地作りでロスが出ても、絵付けで失敗しても、全て自社の責任となり、リスクもある。それでも一貫生産を貫く虚空蔵窯。そのメリットを、再び貴洋さんに聞いてみました。

「自分たちの作りたいと思う商品をワンストップで作れる点ですね。試作の器も専門の素地屋さんに頼まなくても、自社で作れるし、絵付けに関しても自分のところで試しに描いてもらうことができる。ロクロ師と絵付け師も同じ職場だから意見交換もしやすく、スピーディーですよね」。

実際、商品開発のきっかけはどんな感じなのですか?

「きっかけは、ふわっとしていますね。お客様からの何気ない一言がヒントになっていたり、トルコ釉シリーズみたいに好きな色、作ってみたいという想いからだったり。開発段階では、生産性や利益率といった現実的なことも考慮していきますが、最初のきっかけは本当にふわっとしていますね」。


ドリッパー&ポット

一貫生産だからこそ、自由な発想で商品開発にチャレンジができる。ドリッパー&ポットといった、他ではあまりみられない商品も、一貫生産の虚空蔵窯だからこそのラインナップですね。

 

企画で生まれた
ストロベリーデザインがシリーズ化

虚空蔵窯のアイテムの中でも、より可愛いに振り切ったSweetSシリーズについても注目です。


SweetS 豆皿5枚セット

ここからはSweetSシリーズのデザインを手がけた絵付け師の市田真紀さんにお話を聞きました。


SweetS 朝食プレート

SweetSシリーズの始まりは、百貨店のバレンタイン企画から生まれたものなんですよね。

「そうなんです。企画のテーマは『イチゴ』。そこから可愛くて、美味しそうなお皿にしたいなぁという発想から、最初の『ストロベリー』が生まれたんです」。

評判がとても良かったと聞いています。そこからさらにバイヤーさんから声をかけられたとか。

「はい。『他のスイーツでも考えてみては?』と言ってくださって」。

シリーズ化決定の瞬間ですね。

「(笑)。イチゴ以外にどんなのがいいのかなぁと考えていて、浮かんだのが九谷五彩。九谷五彩の中から、黄色と紫、緑を使って、4つの新しい絵柄を加えました」。

パンケーキ、メロンソーダ、ブルーベリージャム、チョコバナナが加わったんですね。


SweetS 湯呑

「このシリーズのポイントは、いかに美味しそうに見えるかなんです。そのために絵具を盛り上げるように塗っています。厚く塗ると、キレイに発色して美味しそうに見えます。それとぷっくりとした感じが出ることも大事で、それもまた美味しそうに見える効果もあるんです」。

厚く塗る技法は、もともと九谷焼の特徴の1つでもありますよね。でもその特徴を「美味しさ」の表現にしてしまう点、面白いですね。

 

加賀水引細工をモチーフにした
「水引-結-」

水引シリーズは、お客様からの「加賀の水引細工が可愛い」という声をいただいたことがきっかけなのだそう。まさに貴洋さんの言う「ふわっ」とした始まり。


水引-結-豆皿5枚セット

絵付け師の奥野さんも水引細工が好きということもあり、水引細工をモチーフに絵付けをしてみることに。その時のことを奥野さんにお話を伺ってみると

「水引細工のアクセサリーとか可愛いですよね。加賀友禅の絵柄を参考にして器に描くこともあるし、その感覚で水引細工も器に落とし込んでみようと思ったんですが…。これが本当に難しくて」。

水引-結-カップ&ソーサー

確か水引細工は、平面的な水引とは違い、立体的ですよね。

「そうなんです。立体的な水引細工を平面で表現すると、水引細工に見えないんです」。

うっ、それは辛い。。。

「でも、やるしかないので、とにかく、実物の水引細工を見ながら、描いて、描いて、何回も描いて、描いてを繰り返しました。最終的には、一つひとつ水引を結っているように描くことで、納得できるものが描けるようになりました。見えている部分だけでなく、この線は裏ではこうなって、(見えている部分の)ここに繋がっているという感じで、イメージしながら描いています」。


水引-結-いっぷく碗

苦労の末に、完成したんですね。

「完成しましたね。でも。これまでの虚空蔵窯の商品は、絵が描き込まれているものが多い中、水引シリーズは余白が多いので寂しいのかなと思ったり(笑)」。

全然、寂しくないです。むしろ、可愛くて上品な印象です。それに余白がある分、手づくりの土物ならではの器肌の雰囲気が楽しめて、虚空蔵窯ならではの魅力を味わえる作品だなと感じました。


水引-結- 角皿

「ありがとうございます」。

お話を聞き終えると、お二人とも再び絵付けに没頭されていました☺︎

これからの虚空蔵窯

再び、社長の貴洋さんに、これからの虚空蔵窯についてお聞きしました。

「先代の頃は、展示会の度に新商品を出していて、そのサイクルも早かった。でも今は違う。シリーズを育てる時代になったと感じています。新しいものはもちろん出していくつもりですが、昔のように次から次というわけではない。生み出したシリーズを、一人でも多くの人に知ってもらいたい、虚空蔵窯の器を好きになってもらいたい。そのためにアピールしていきたい。昔と違い、今はたくさんの人にアピールできるツールがいろいろある。それを上手に使って、虚空蔵窯の器を多くの人に愛用してもらいたいですね」。

虚空蔵窯ホームページはこちら