ゆるぎなき自然の美
鳥や草花を写実に描く
山田義明
写生で捉えた山野草や枝にとまる鳥を忠実に表現するのが山田義明氏のスタイル。余白から静けさを感じたかと思うと、風が吹き抜け、揺れる葉に、鳥のさえずりが聞こえてくるような…うつわを通して野山とつながる不思議な感覚になります。そんな壮大な自然を可憐に写実に描く山田義明氏にお話を伺うため、義明窯にお邪魔しました。
工房に隣接するギャラリーには、たくさんの作品が並びます。そんな中、一つの大皿に目がとまりました。
秋の色の山帰来(さんきらい)
自然が織りなす姿形のおもしろさ
令和5年第70回日本伝統工芸展入選作
とても大きなうつわ。その余白を大胆に残し、山帰来(さんきらい)が悠然と描かれています。赤い実に対して、葉は褐色に染まっています。
「これが秋の色」と義明氏が声をかけてくれました。
なんて素敵な響きだろう。改めて秋の色をまとう山帰来の葉を眺める。「実が熟す時期、葉は朽ちていく。でも、この葉の先端のカタチ。こんなの自分の想像では描けない」。
唯一無二の自然のデザインを
写生で切り取り、うつわで蘇らせる
写生で自然を切り取り、それをうつわに写して、そしてそのうつわを手にした人が、好きな空間で自然を楽しむことができる。それが山田義明氏の作品の魅力といえます。
「自然に自生しているものは、想像を超えていて、動きがあって面白い。同じ植物でもいろんなパターンがある。虫食いの穴なんて、ほんと面白い。写生していると、同じものなんてないって実感する。葉っぱ1枚、虫食いの穴1つにしても違っていて。それがうつわに写すと、味わいになり、趣になる」と義明氏。
同じ植物でも、季節や時間、場所や見る角度によって様々な表情を見せるのだそう。スケッチブックには、同じ植物が何パターンと描かれています。
絵付けをする作業場には、写生したスケッチブックがびっしり。
写生からうつわへ。
試行錯誤を経て構図が決まる
紙という平面に描いたものを、立体的なうつわにどう描くのか話を聞くと、うつわの形に紙を切って、そこに描きたい植物の写生したものを写して構図を検討するのだそう。うつわのカタチに合わせて、どこに葉や実をおくか、余白とのバランスを考え試行錯誤。同じ植物の様々な写生したものを組み合わせて1つの作品に仕上げることも多いとか。「作品によっては、構図が決まるまでに7、8枚描く」と義明氏。
紙に書かれた原稿(構図が決まったもの)
丸い皿のカタチにした紙にカイロ灰で描き、それをうつわに押し当てる。するとハンコのようにカイロ灰がうつわに写ります。それを元に絵付けを行なっていく。
ぼんやりとした線が写したカイロ灰。濃くはっきりしているのが、呉須という絵具で描かれたもので、九谷焼では骨描き(こつがき)とも呼ばれています。
呉須で骨描きした後、ボカシを入れ色絵具をのせていく。
たくさんの色見本も見せてもらいました。
この色見本は葉っぱのカタチに、さまざまな色があてられています。これを元に絵具の調合をするのだそう。
絵付け後、焼成して完成。
家業を継ぐカタチで
九谷焼の世界へ
九谷焼の仕事をするようになったのは、義明氏が20歳の頃。家業を手伝うカタチでスタートさせたそう。「当時は大量生産のハンコもの(ハンコを使って絵付けを施す技法で、手描きと違い大量生産が叶う)でとても忙しかった」と振り返ってくれました。
当時生産していたハンコものの花瓶
「私の住む佐野という土地は、赤絵の九谷焼が有名で、ハンコもので赤絵の九谷焼を大量に作っていた。当時は、バブルに向かって右肩上がりに景気が良い時代だったから、たくさん売れたね」。
九谷焼という仕事に向き合う日々。その後、25歳で結婚し、翌年お子さんが誕生したことで、心境に変化が訪れます。
「このままハンコものだけしていて良いのか?」
という思いがよぎり、そこから行動開始。絵(手描き)の勉強を始めたのだそう。
第一の転機
青九谷・手描きの技法を学ぶ
手描きの絵付けを学ぶにあたり、師として教えをこうたのが、のちに色絵九谷(青九谷)の名匠と称される山近剛氏だ。仕事のあと、夜2時間、週5で学んだそう。「当時、山近先生は教師をされていて、教師の仕事の後に指導してくださった。感謝しかない」。
初めて描いた青九谷の作品
2年間通い、和絵具の扱いや絵付けのイロハを叩き込み、そして展覧会に出品できるほどに腕を磨いたそう。
「その頃から、徐々に手描きの仕事を増やしていきました」。
第二の転機
写生との出会い
3代武腰泰山氏の作品に魅了され、武腰氏の教えを受ける。そこで写生とみっちり向き合うことができ、それが今の作風へとつながる。
「当時は、うつわではなく、色紙に墨で描いていて」と、壁に飾ってあった1枚の色紙を見せてくれました。
当時の色紙
「こんな感じに色紙に写生しながら、そこで余白の重要性をしみじみと実感していくのです。余白を生かしてバランス良く描けば、上品で美しい。でも余白を生かすというのはとても難しい」。いまだに、余白を生かすのは課題であり、憧れなのだそう。
描き込むのではなく
余白を生かし、すっきりと描く
九谷焼のイメージであれば、古九谷や吉田屋をはじめ、うつわ全面を埋め尽くすものが多い。そんな中、「描き込むよりも、すっきり描く方が好き」と義明氏。
ただただ山野草のその佇まいに目を奪われます。余白があるからこそ際立つ絵の美しさ。逆に絵が、色彩が秀逸だからこその成せる技ともいえます。
食器への挑戦。
料理のための余白
これからどんなものを手がけていきたいですかの問いに「最近は、食器に挑戦している」とのこと。
「これがまた難しい」と義明氏。これまで手がけてきた花瓶や飾皿は、それのみで完結できるが、食器はそうはいかない。
「食器は、料理を盛り付けたときに完結する」と義明氏。
今までは描く草花や鳥と余白のバランスに気を配っていましたが、食器はそこに盛り付ける料理も計算に入れなければならないという。
「難しい」という言葉とは裏腹に、なんだか楽しそうにも見えました。
眺めて愛でるから、使う楽しさへ。
山田義明氏のうつわの世界は広がり続けます。
・・・
山田義明
昭和23年 石川県寺井町生まれ
日本工芸会正会員
創造美術会顧問
伝統工芸士
石川県指定無形文化財 九谷焼技術保存会会員
陶歴
昭和49年
創造美術会、山近剛氏に師事
昭和50年
第28回創造展入選 以後連続入選
武腰泰山氏に薫陶を受ける
昭和52年
第30回創造展新人賞受賞
昭和53年
第1回伝統九谷焼工芸展入選 以後連続入選
昭和56年
創造美術会、会員に推挙される
昭和57年
第29回日本伝統工芸展 初入選
昭和58年
第6回伝統九谷焼工芸展 優秀賞受賞
石川の伝統工芸展入賞 以来連続入選
第7回伝統九谷焼工芸展 九谷連合会理事長賞受賞
昭和60年
日本工芸会正会員に推挙される
昭和61年
創造展 会員賞受賞
昭和62年
第11回伝統九谷焼工芸展 九谷連合会理事長賞受賞
平成2年
石川の伝統工芸展 奨励賞受賞
平成6年
日本橋三越にて個展 以後8回開催
平成10年
創造展 東京都知事賞受賞
平成11年
伝統工芸士認定
平成12年
伝統九谷焼工芸展 技術賞受賞
平成14年
第48回日本伝統工芸展入選作「色絵烏瓜文壷」宮内庁お買い上げ
平成16年
伝統九谷焼工芸展 技術賞受賞
銀座和光にて個展
平成17年
伝統九谷焼工芸展にて次賞 北國新聞社賞受賞
新作陶芸展(日本工芸会)にて日本工芸会賞受賞
平成19年
第60回創造展 文部科学大臣賞受賞
平成20年
日本橋三越にて個展開催(還暦記念)
平成22年
伝統九谷焼工芸展 優秀賞受賞
石川の伝統工芸展 奨励賞受賞
平成23年
伝統九谷焼工芸展 優秀賞受賞
創造美術会代表に就任〜27年
平成27年
伝統九谷焼工芸展 優秀賞受賞
平成28年
伝統九谷焼工芸展 大賞受賞
第63回日本伝統工芸展「色絵山帰来文九角鉢」宮内庁お買い上げ 過去6回のお買い上げ
平成29年
神宮美術館にて 野-歌会始御題によせて-に「野葡萄文九角飾鉢」を出品。伊勢神宮に奉納
平成30年
伝統九谷焼工芸展 大賞受賞
令和2年
瑞宝単光章 拝受