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能美市九谷焼美術館で「ぜひ見てほしい九谷焼5点」


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九谷焼MAG どい

石川県の編集・出版社に15年勤務を経て、九谷焼技術研修所へ。その後、九谷焼MAGで、日々九谷焼の情報を発信しています。

能美市九谷焼美術館 中矢館長がセレクト
「ぜひみてほしい九谷焼5点」

能美市九谷焼美術館「五彩館」の中矢館長は、九谷陶磁器史研究家でもあり、初期九谷である古九谷から現代作家の九谷焼まで幅広い知識をお持ちの方です。そんな九谷焼のスペシャリスト・中矢館長に五彩館に展示されている数ある貴重な九谷焼の中から「ぜひ、見てもらいたい展示品5点」をピックアップしていただきました。そして、その魅力や特徴などをお話していただきました。

 

1点目は、古九谷の青手。
戦国の世の威風が残る力強さと豪放さは必見。

私が、当館でぜひ見ていただきたい展示品1点目は『古九谷 青手芭蕉図平鉢』です。

古九谷 青手芭蕉図平鉢 江戸前期
古九谷には2つの様式があります。

油絵のようなタッチで、器全体を絵具で塗り埋める様式「青手」と、日本画のような余白を残して描かれる様式「五彩手」です。
私は青手が特に好きなんです。力強い線描と豪放なタッチ。そして濃厚な三彩(緑、黄、紫)。見飽きることはありませんね。

古九谷の魅力はなんといっても力強さと豪放さ。戦国から安土桃山時代の美意識を受けついだ大名気質をあらわすような、豪放華麗でやや粗野であっても見る者の魂を震わせるダイナミズムさを内包する焼き物です。

当時、色絵磁器は希少で、その製作方法も知られていない時代。そんな中、最先端を行く中国明代の技法を取り入れ、それでいて、その表現は中国の模倣はしていない。古九谷は全くのオリジナルの表現をしているのです。

江戸前期の鎖国下において、しかも出島のあった九州から遠く離れた加賀の奥山で、見事な独創的アートが生まれていたのですから、ものすごいことです。そんな離れ業を可能にしたのは、前田家のバックアップがあったからです。古九谷が作られた江戸前期は、徳川の世が始まったばかり。まだまだ前田家も力を持っており、「徳川の世であっても、文化で天下を覇する」そんな前田家の気概が古九谷には感じられます。古九谷の力強さや豪放さには、戦国の世の威風が残っているのです。
フリーハンドでためらうことなく、力強く描かれた呉須線(呉須:ゴス。黒い輪郭線のこと)が見事です。縁周りの木目模様もリズミカルで迷いがない。独特の世界観ですよね。古九谷にしかない雰囲気。「どうだ!」と言わんばかりの力強さを器全体から感じます。

 

2点目は、再興九谷の青手。
古九谷との見比べを楽しんでほしい

古九谷というのは、初期の九谷焼のことをさします。古九谷の窯は50年ほどしか稼働せず、前田家の色絵磁器生産は行われなくなりました。しかし約100年後に再び領内で九谷焼は作られるようになります。それらを再興九谷と呼ばれます。

ここで、おすすめ2点目は、再興九谷の窯の1つ松山窯 の『蕪に遊禽の図平鉢(かぶにゆうきんのずひらばち)』。松山窯は、古九谷の青手復興のために開かれた窯です。

松山窯 蕪に遊禽の図平鉢 江戸末期
色使いは古九谷の青手様式と同じですが、カブや小鳥といったモチーフがかわいく、ほほえましい印象です。古九谷の青手とは印象が違いますね。

力強さというよりは、柔らかい雰囲気が漂います。この頃は戦国から200年以上の時が過ぎ、とても平和な時代だったと言えます。
そんな世の平和が、画風にもあらわれているのでしょう。
ぜひ五彩館で、古九谷の青手と松山窯の青手を見比べて、その違いを楽しんでもらいたいですね。

 

3点目は、九谷庄三の若い頃の作。
一人ひとりの表情や着物の模様にも注目を

九谷庄三とは、明治時代に欧州で九谷焼ブームを巻き起こしたジャパンクタニの中核を担った人物です。そんな庄三が若かりし頃に手がけた作品が、おすすめの展示品、3点目になります。

小野窯 赤絵百老図鉢 江戸後期
庄三は、明治に入り「彩色金襴手」を開発。その作品が欧州に渡り九谷焼ブームを巻き起こし成功を納めましたが、そこにたどり着くまでに、庄三はさまざまな技法を習得していきました。

赤絵細描もその一つです。『赤絵百老図鉢』は、庄三が小野窯で手がけた赤絵彩描の作品といわれています。
細かく描き込まれた線の見事さはもちろん、一人ひとりの表情も違えば、仕草や動作も違う。着物の模様も描き変えています。


実は、この器には窯傷(器を窯で焼いた時にできてしまったキズ)があります。傷はどこにあるかというと、向かって右側、両手で抱えるように杖を持つ人。まさにその杖の部分です。傷跡にそって上手く杖を描き、傷を目立たせない工夫がなされています。
ぜひそこも注目して鑑賞していただきたい作品です。
(この杖部分のアップの写真は、九谷焼MAG撮影)

 

4点目は、庄三の色絵の作品。
水をはることを前提に描かれている

庄三は小野窯で、同じく小野窯に招かれていた色絵における奇才・粟生屋源右衛門から多大な影響を受けていました。粟生屋源右衛門はおもしろい作品を手がけていますが庄三の色絵の作品にもユニークなものがあります。
それが4点目のおすすめの展示品「色絵山水亀図馬盥(うまだらい)形水盤」です。

九谷庄三 色絵山水亀図馬盥形水盤
赤絵細描や絢爛豪華な色彩金襴手のイメージが強い庄三ですが、色絵の作品も素晴らしいです。そもそも陶磁器でタライを作ること自体がとても斬新で面白い発想ですよね。ちゃんと水をはることを前提に絵付けを施しているのも流石です。

亀の輪郭はところどころ歪ませてあります。水をはると、この亀はきっと動いているように見えることでしょう。庄三の表現力には驚かされます。


タライの内側の側面にもびっしりと山水が描かれています。

 

5点目は、
板谷波山と室生犀星の交流の可能性をものがたる庄三の平鉢

板谷波山は、日本を代表する陶芸家です。室生犀星は、金沢市出身の詩人・小説家として有名ですよね。その二人が交流していたという可能性を示すのがこの『色絵朝顔仔猫図平鉢』です。

九谷庄三 色絵朝顔仔猫図平鉢 明治初期朝顔から糸で下がってきたクモを見上げる仔猫が実にユーモラスで愛らしい作品です。この平鉢は、かつて板谷波山が所蔵していたとされ、また、室生犀星が短編『九谷庄三』の中で、この作品の絵柄を詳しく述べています。波山に犀星がこの平鉢を見せてもらっていたことが推察されます。


この作品には、もう1点、注目していただきたい点があります。それは、描かれている2匹の仔猫。私は、この猫がなんだかとても気になったんです。どこかで見たことがあるなぁと、いろいろと調べた結果、北斎の画譜(葛飾北斎が弟子のために用意した絵手本)の中に同じように描かれている猫の絵を見つけたんです。
「庄三も北斎画譜を参考に描いたのだろう」と思うと古九谷とはまた違った、歴史のロマンを感じ、うれしくなりました。

 

能美市九谷焼美術館 「五彩館 」中矢進一館長

九谷陶磁器史研究家。
石川県加賀市教育委員会、加賀市美術館学芸員、石川県九谷焼美術館副館長を歴任。
2016年より能美市九谷焼美術館館長に就任し、今に至る。
2006年全国5会場巡回特別展「古九谷浪漫 華麗なる吉田屋展」、2015年特別展「大名細川家の茶席と加賀九谷焼展」(永青文庫)、2015年北陸新幹線金沢開業記念特別展「交流するやきもの九谷焼の系譜と展開展」(東京ステーションギャラリー)を監修。「交流するやきもの九谷焼の系譜と展開展」会期中では、上皇上皇后両陛下行幸啓に際し「ご説明役」を務めた。

『ふでばこ(九谷焼特集)』、『九谷モダン』などの共著がある。

 



中矢館長の九谷焼のお話を聞いた後に、古九谷や庄三の作品を見るとその素晴らしさに改めて感動しました。「素敵だな」「かっこいいな」「欲しいな」と思いながらミュージアムショップをのぞくと
そこには…

九谷焼の紙皿!!
中矢館長のピックアップした作品のうちの3点が紙皿になっていました☺︎『蕪に遊禽の図平鉢』と『赤絵百老図』と『色絵朝顔仔猫図平鉢』。本物を手にすることは難しいですが、紙皿なら自分のものにできますよ♪

青手の古九谷は紙皿になっていなくて残念と思っていたら。。。紙皿ではありませんが

クリアファイルになっていました♪古九谷、ゲットできます。

五彩館で九谷焼を堪能した後は、ミュージアムショップもぜひチェックしてみてください。

能美市九谷焼美術館 「五彩館」
http://www.kutaniyaki.or.jp/about_museum/gosai.html