窯元・作家さんのこと

北村和義|呉須の線と遊び心を。九谷焼の新境地


呉須の線と遊び心。
伝統の小紋が彩る、九谷焼の新境地
北村和義

呉須線の美に魅了され、小紋を「彩(いろどり)」として描き出す気鋭の九谷焼作家・北村和義。伝統を礎としながらも、緻密な手仕事の中に宿るのは、静かな情熱と大胆な遊び心。九谷焼の新境地を切り拓き続ける、北村氏の唯一無二の表現に迫ります。

北村和義 本を読むカエル フクロウ

いつもの暮らしのそばに、想像が広がる九谷焼

「動物たちが自転車に乗ってどこ行くのかな?って想像すると面白いでしょ?」

今、力を入れている『おでかけシリーズ』を手にしながら楽しそうに話してくれる北村和義氏。たなびくスカーフもこだわりで、自転車を漕ぐ動物たちの疾走感を表現しているのだそう。

北村和義 お出かけシリーズ オブジェ 自転車に乗るうさぎ カエル フクロウ

「このおでかけシリーズのオブジェを玄関に置いて、出かける時に目に入って『くすっ』と和んでくれたり、飛べるはずのフクロウがなんで自転車に乗っているんだろう?と疑問に思ったり、見る人がいろいろ感じてくれると嬉しい」

と、その表情はとてもにこやかだ。

伝統的な小紋を質感や色彩として
作品に取り入れる独創性

北村氏の作品で興味深いのが小紋の使い方。動物たちは、さまざまな小紋をパッチワークのように配して描かれています。線描き工程のうさぎのオブジェを見ながら

「唐草模様って毛並み感があるし、お腹は七宝模様や点描で白っぽくしています。

僕は、色を重ねる前の呉須描きの状態がキレイだなって思っていて」

呉須描きとは、呉須という顔料で輪郭を描くこと。
一般的に九谷焼は豊かな色彩で魅了しますが、北村氏の作品は色の割合が少なく、呉須線の印象が強い。

「色で彩るというより、この黒い呉須線で埋めたい、黒い線で作品を仕上げたい。だから、絵の具ではなく、小紋で埋めている感じです」


呉須の線が主役、あくまで色彩は脇役なのが、北村作品の真骨頂だ。色の代わりに小紋を使う。その発想が面白い。そして作品に強烈なインパクトとなって、見る人を魅了します。
とはいえ、これだけ線を描き込んでいるのに不思議とごちゃついて見えないのはなぜなのでしょう。

トライ&エラーの先に辿り着く、
呉須線の美

「描いてみては失敗してを繰り返すうちに、辿り着いた感じかな」。

小紋は輪郭線を焼き付けてから描くのだそう。

「最初に目星をつける。緑色が青海波模様、黄色は点描って言って点々、紫色は格子模様。十字に交差しているところは七宝模様。そうしておかないと訳わかんなくなっちゃう。小紋自体はフリーハンドで描いていきます。ずっと描いているから目を瞑っていても描ける(笑)。

でもね、実はいまだに失敗なんてザラにある。インスタとかに載せているものはうまくいった作品。世に出せずに終わるものもいっぱいあるんですよ」

それだけ、小紋を組み合わせての表現は難しいということ。しかし、失敗してもなお突き進む。それは、呉須描きに惚れ込んでいる氏ならではの、純粋なこだわり。何百本という線を丁寧に積み上げて生まれる作品。その妥協のない執念こそが、九谷焼の伝統を今の暮らしに馴染む「美しさ」「飾りたくなる魅力」となって作品に表れているのでしょう。

漫画家という夢の挫折から
始まった九谷焼の道

「実は、こんな感じで仕事が増えたのは、ここ10年ぐらいの話。今みたいな絵を描くようになってから」と北村氏は振り返る。

「父が九谷焼の絵付け師。なんだけど、子どもの頃は父の工房にも行ったことなかったから、九谷焼の『く』の字も知らなかった。でも絵を描くことは好きで、漫画家になりたいと思っていたんです。学生の頃、漫画のコンテストにも応募したりして。でも賞なんて一回も取れず、漫画家は無理だなと諦めて、地元の美術系の学校に進学。工芸のコースで、九谷焼に出会ったんです。そして20歳の時に九谷焼技術研修所に入って、授業で初めて自分で絵付けした器が焼き上がった時、『うわ、俺にも九谷焼ができた』ってすごく感動して。その時の感動がすごかったから、うまくいかない時があっても続けてこれたのかもしれない」

九谷焼作家としての始まりは
「絵」ではなく自分だけの「色」を求めた

「九谷焼技術研修所を卒業して、23歳の時に父の窯に入って職人として働きながら自分の作品を作っていました。その頃は、僕だけの色を作りたいって思いが強かったんです。


当時は、ベースに黒を塗って、その上に色を重ねていく「黒彩」と名付けた作品を手掛けていました。日展に出したりして、それなりに良かったんです。だんだん百貨店やギャラリーから個展依頼も来るようになって。でも何年後かに同じ会場で個展をやるとなった時、色だけでやっていると新作のバリエーションに限界があると、ふと思ったんです」


今の作風に黒彩を取り入れた作品

絵を描くのが好き。その原点に立ち返ることで開かれた道

「40歳ぐらいの時だったと思うけど、その年、新宿の伊勢丹で個展があったんです。大きい個展で、今回何を作ろうかと考えた時に、とりあえず黒彩を全部やめてみようって。
絵を描くのが好きで進学したのに、ここまであまり絵を描いてなかった。父親が絵付け師として絵を描いていたから無意識に父親と違うことをしようって思っていたのかな。でもそう思うのはやめて、好きな絵を描いて個展に臨んだら、、、ことのほか評判が良くて。そこからはもう完全に方向転換して、今やっている動物とか小紋で描いているシリーズをやってます。

九谷焼作家と名乗る以上、自分の代表作にするべく黒彩を作っていたけど、本当に自分のやりたいことをやっていたわけではなかったんだなと。
僕はやっぱり絵を描きたいと気づきました。九谷焼作家は、みんな絵が上手。でもいいや、自分の絵を描いていけばいいんだって、今は思ってます。
動物たちにいろんな表情や動きをつけて描いていったら、お客さんが喜んでくれる。動物たちの姿をみて、クスッと笑顔になってくれる。その姿を見て、僕、すごくいいなぁって嬉しくなった」

表情や動きの工夫と聞くと、漫画に通ずるものがあり、また、漫画も基本は黒い線で表現されている。改めて作品を見ると合点がいきます。

「漫画家になりたいと思っていたのが今に生きてるのかな。動物の周りの植物とかも、子どもの頃や漫画家を目指していた時に培ったもので、何の植物ですかって聞かれてもなんの植物でもないの。こういう葉っぱを描きたいなっていう感じで描いてる。リアルさとはまた別だから。

例えば(鯨の陶額を指しながら)クジラを描こうと思った時に、クジラって海の象徴するような生き物。大きくて、存在感がある。だからクジラの背中を港にしたらいいんじゃないかなって。港だからそこに船も集まってくる。僕なりに創作していますね」


(くじらの陶額の画像)

北村氏といえばコラボ作品でもその名が知られる作家

これまでも数多くの有名企業とのコラボ作品を世に送り出してきた北村氏。
「最初は、九谷焼作家の有志で集まって、何か九谷焼で新しいものを作ろうとなり、カブトムシのオブジェを開発したんです。それを東京の見本市に出展した際、タカラトミーの方がブースに立ち寄ってくださいました。展示していた九谷焼のカブトムシに興味を持ってくださったんです。

その出会いが、九谷焼チョロQに繋がったんです。東京の見本市から2週間後には試作品を完成させて、タカラトミーの本社に持参したんです。試作品は九谷焼のボディの中に、実際のチョロQのゼンマイを組み込んでいるので、ちゃんと走る。それがきっかけで、当時の『東京おもちゃショー』のブースに並べたいと正式にオファーをいただきました。
当日は僕もアテンドとして会場に立ったのですが、本当に多くの方が足を止め、写真を撮ってくれた。若い人たちが、九谷焼に興味を示してくれたことに衝撃を受けて。九谷焼単体だと振り向かせることができなくても、こういういろんな企業のキャラクターや商品と九谷焼を掛け合わせることで注目される。これってものすごく九谷焼の未来につながることなんじゃないかと思って。この経験以来、僕は積極的に企業コラボに取り組むようになったんです」

今のライフスタイルの中で
いかに九谷焼を輝かせるか

「技術を学ぶだけでは、九谷焼という伝統工芸は残っていかない。企業コラボで多くの人に九谷焼を知ってもらうことも大事だし、作り手である僕らは常に使う人のことを考えていないといけない。九谷焼は工芸品。工芸品っていうのは生活の中の美。

でも生活、つまりライフスタイルって変化していっている。例えば住宅環境。昔の日本家屋には和室があって、床の間があって、玄関も広かった。でも今はそれとは違うでしょ。大きな壺とか飾皿を飾る場所自体がないケースが多いと思うんです。今の住まいのスタイルに合わせて、例えばテレビの横にちょこんと飾れるサイズ感だったり、壁さえあれば飾れる陶額のような形状だったり、ちゃんと使いたくなる、飾りたくなる提案をしていかないとね。

楽しげな陶額を廊下に飾ってたら、なんとなく明るい雰囲気の空間になるかなって。僕の作品を通じて、何かを感じとってくれたり、楽しい気分になってくれたら嬉しいな」

今後の展望を聞くと、毎年、新作を作っていきたいとのこと。どんな作品でまた私たちを楽しく誘ってくれるのか、今後も楽しみです。

 

北村和義

日本現代工芸美術家協会本会員
石川県美術文化協会会員
石川県陶芸協会会員

1974年
石川県九谷竹隆窯に生まれる
1997年
国際色絵陶磁器コンペティション入選
2000年
朝日クラフト展入選
伝統九谷工芸展入選
2002年
第58回 現代美術展次賞受賞
2003年
第59回 現代美術展佳作受賞
第42回 日本現代工芸石川展初入選
2004年
第36回 日展初出品、初入選 黒彩「胡蝶の夢」
2006年
第38回 日展「紫の雲路」入選
松井秀喜ベースボールミュージアムのオリジナル九谷焼グッズ作成
2007年
NHK「新・日本紀行」に出演 黒彩技法が取り上げられる
第39回 日展「悠久」入選
第46回 日本現代工芸展テレビ金沢社長賞受賞
2009年
ドイツ筆記具ブランド・ファーバーカステルの九谷焼ペン立て制作
九谷塾 SUPERKUTANI INSECT PROJECTに参加
桂米朝 文化勲章受章記念品作成
2010年
第49回 日本現代工芸美術展現代工芸賞受賞
第66回 現代美術展最高賞受賞
第42回 日展「方舟2」入選
タカラ・トミーチョロQ30周年企画 九谷焼チョロQ作成
2011年
MADFOOT10周年企画 九谷焼スニーカー作成
奈良薬師寺に作品収蔵
2012年
第44回 日展 入選
2013年
第45回 日展・黒彩「ストゥーパ」入選
PCJ日本ポルシェクラブ13年度記念絵皿作成
日本テレビ「スッキリ」に作品を取り上げられ出演
現代美術展審査委員 就任
北村和義Instagram

竹隆窯公式サイト

 

※文中に出てくる「チョロQ」は株式会社タカラトミーの登録商標です。本記事は作家の活動の歩みを紹介するものであり、現在の製品販売状況等を示すものではありません。